<大嶋貴明(宮城県美術館学芸員)「多声への反可能性 Scale Out 2007」抜粋,『Scale Out 2007』(展覧会カタログ), Scale Out実行委員会, 2007年, p.11>
細川と同窓でもあるササキットムは、より抽象的空間と具象的風景の間、風景の現象面だけを抽出したような「光景」とでもいうべき宙吊り感のある作品を描き続けている。
ササキの作品は、これまで、メジュームを大量に使用することで、メジュームの層のなかに顔料の粒子が分散した、表面の光沢だけではなく、まさに物理的な媒体としての空間がある作品であった。今回の作品では(今年の春の個展の作品からか)樹脂量が制限されて、メジュームがつくりだす空間感よりは、不均質なグレーが空間をつくりだしている。このグレーは、中間色的な色調や筆致の変化によってできている。
ササキの絵の具の重ね方は、大き<色面を馴染ませるように、ぼかしこみ重ねるものだ。これが、メジュームによる空間やグレーの色彩空間を生みだす。細川とは違って、対比対立的というよりは、馴染みぼかしとけ込ませてベ一スの空間が生み出されていくところに、その特徴があった。物理的画面よりも、このベ一スになる空間感は強く、絵画のフレームの内側で完結せず、窓の外に広がる空間のように画枠の外へ拡張する。調子のつながりはフレームの形式性に閉じていない。画面は、物理的な厚みと、ィリュージョンとしての深い空間、また、表面の絵の具の物質性と空間の上層に見えるストロ一クによって、複雑な様相を示し、おおむね、初期の作品では、縦画面で、上部に向かってななめに奥行きのイリュージョンに特徴づけられていた。その後、ィリュージョンとしての空間は、画面に対して平行に奥行き(厚さというべきか)がつけられ、抽象的な空間性よりある具象的な空間に見えてきた。
今回の新作は、画面空間の方向は変わらないが、ストロ一クの形状や、先にのべたメジューム量の減少からか、絵の具の現象的な在り方と気象的な現象との類同によって抽象とも具象とも違った、「光景性」を感じさせている。ベ一スになる空間性に対して、ストロ一クだけではなく、黒に近い茶の点状のアクセントが点々とおかれ、それは、ストロ一クほど垂直性をもたず四方に馴染ませられている。結果として画面は上方の光景をみるような天井方向への「絵画性」がもたらされている。